多様性と境界に関する対話と表現の研究所

アートカウンシル東京

【開催報告】もやもやフィールドワーク 報告と対話編 第14回

2月23日、「もやもやフィールドワーク 報告と対話編 第14回」を実施しました。

今回のテーマは、以下の通りです。
第1部 報告:アクションリサーチの試み―ハーモニーとの協働から(最終報告)
第2部 対話:哲学カフェ「人は一人では生きていけない?」

前半は、研究所員の石橋による報告。今年度「もやもやフィールドワーク調査編」で行った、世田谷の就労継続支援B型事業所「ハーモニー」の皆さんとの協働による調査研究についてです。報告と対話編では、第12回・第13回と、この調査の過程について中間報告をさせていただいていました。今回は、その最終報告という位置づけです。

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まず初めに、この調査を行うに至った経緯や、その背後にあった問題意識についてお話ししました。ある困難を抱えた当事者の「体験」が、抑圧されたり無化されたりしてしまうことが多い状況の中で、どのような形での「体験の共有」が考えられるのか、という問題意識から始まり、ハーモニーの皆さん、外部からお呼びした協力者の皆さんと一緒に、「幻聴妄想かるた」を使った新たな遊び方を考えるに至った経緯について説明しました。

そうして開発されたのが、「ジェスチャーかるたゲーム」です。デモンストレーションを交えて、そのルールについて説明したのち、このゲームの中で参加者はどのような体験をしたのか、その仕組みについて、図解を交えて説明しました。

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最後に、このゲームの中で、どのような形で「体験の共有」がおこっているのかについて考察しました。ジェスチャーをすること、そしてその過程について語り合うことで、参加者それぞれは自らの「体験の実感」を得ることになる。このような状況をその場にいるみんなで作っていくことこそが、このゲームにおける「体験の共有」のありようだったのではないか、という結論に至りました。

この報告については、今年度末に発行予定の「JOURNAL東京迂回路研究3」に、その内容が詳しく掲載されています。よろしければ、そちらもぜひご覧になってください。

後半は、参加者全員による「哲学カフェ」です。報告に関連したテーマについて、対話を行います。今回のテーマは、「人は一人では生きていけない?」です。

まず初めに、このテーマをはじめに聞いた時のイメージについて語り合いました。その中で出てきたのが、「生きる」という言葉をどう捉えるか、という話題です。一言に「生きる」といっても、生命を維持することと、社会的な関係の中で生きていくことの間には、差があるのではないか。「生きる」ことと「生きていく」ことは、異なるのではないか。などの意見が出てきました。

そのうち、話題は「一人」という状態のことに移りました。「一人」ではないのは、その人が何と一緒の時なのでしょうか。他の人間はもちろん、動物と一緒にいるときも、「一人ではない」と感じるかもしれない。あるいは、おもちゃなどのモノに依存している時も、「一人ではない」と感じることがあるのではないか。

そこから、話題は「生きる」ことと他者との具体的な関係のあり方に。誰かの力を使って生きている、他者に生かされているという感覚を抱くときがある。そのことは痛いほどよくわかっているのに、「一人でいたい」時もあるのはどうしてか。それは、他者と関わることによって、逆説的により深く自分に向き合わされ、その不完全さに気づいてしまうからではないか。では、一人でいれば、自分の不完全さに向き合わされることはないのか。そのように自分の一面を自分とは違う視点で切り取ってくれるからこそ、人は他者が必要なのではないか…

他にもいろいろな話題について話し合われ、毎度のことながら、もう少し考えてみたいトピックがたくさんでてきたところで、時間切れ。そこで話されたことをそれぞれが持ち帰り、2時間のイベントは終了しました。

参加してくださったみなさま、ありがとうございました。今年度の「もやもやフィールドワーク 報告と対話編」は、今回をもって最後となります。たくさんの方々にご参加いただき、最終回にふさわしい時間となりました。

次は、今年度最後のイベント、《「JOURNAL 東京迂回路研究3」発行記念イベント》(3月17日18:00~)です。第1部では、今回の報告でも出てきた「ジェスチャーかるたゲーム」を、参加者の皆様と一緒に、実際にやってみます。第2部は、「迂回路」をめぐってのトークセッションです。こちらもぜひご参加ください!

(石橋鼓太郎)