多様性と境界に関する対話と表現の研究所

アートカウンシル東京

【週報】ジャーナル発行記念イベント 第1部 ジェスチャーかるた大会

2017年03月12日

3月17日に、今年度最後のイベント、
「JOURNAL 東京迂回路研究 3」発行記念イベント:生き抜くための“迂回路”をめぐって
を実施します。

今回は、そのうち、第1部の「幻聴妄想かるた」を用いた「ジェスチャーかるた大会」についてご紹介します。
(第2部:トークセッションに関する紹介記事はこちらをご覧ください。)

この週報でも何度かご紹介させていただいた、世田谷区の障害者就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。そこに通う精神障害を持つメンバーの不思議な体験を、仲間とともに語り合うことでつくった、幻聴妄想かるたに関する活動で知られています。

このようにして作ったかるたを販売したり、一般の参加者とともに新たなかるた札をつくるワークショップをしたり、それらの札を集めたwebサイトを開設したり…と、さまざまな実践がおこなわれています。

東京迂回路研究とハーモニーの皆さんとの関わりは、2015年9月に実施したフォーラム「対話は可能か?」の前夜祭から。ハーモニーの皆さんにご協力いただき、参加者の皆さんと一緒に「幻聴妄想かるた」を遊び、新たなかるた札を作るワークショップを実施させていただいたのでした。

そして、今年度の「調査編」では、調査先の方々と協働して実践をおこなう「アクションリサーチ」の手法を参考に、ハーモニーの皆さん、外部からお呼びした協力者の方と一緒に、この「幻聴妄想かるた」を使った新しい遊び方の開発をおこなってきました。

さまざまな紆余曲折を経て開発したのが、今回おこなう「ジェスチャーかるたゲーム」です。
そのルールは、以下のようになりました。

1. 札を6枚めくって、山札を中央に置きます。めくられた札を、読み上げましょう。
2. ジェスチャーを誰から始めるか決めたら、ゲーム開始!
3. ジェスチャーする人は札を決め、ジェスチャーを「始めます」と言って始めます。
4. 他の参加者は、そのジェスチャーからどの札か想像し、札を取ります。
5. 札は、一番早く正解の札に触れた人のものになります。
6. 上記をくり返し、一番多く札を取った人の勝ち!

そして、昨年10月に東京迂回路研究オープンラボにて、そして11月にアートミーツケア学会にて、参加者の皆さんと一緒にこの「ジェスチャーかるたゲーム」を遊ぶワークショップを実際におこないました。

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その中で印象的だったのは、自分が思いもしなかった方法でジェスチャーをする人、自分のジェスチャーを思いもしなかった方法で解釈する人、そして、そもそもかるた札をどうジェスチャーで表現するかについて思い悩む人が、自分が思ったよりもたくさんいたということです。

例えば、「おとうとを犬にしてしまった」という札があります。これを私は、弟が犬になるさまをジェスチャーで表現するものだと思っていました。しかし、この札を実際にジェスチャーした人は、弟を犬にしてしまう兄の方を、目線の違いだけで表現しようとしたのです!

つまりここでは、かるた札を作った人、ジェスチャーをする人、かるた札を取る人の間において、自分の体験が他者の中で、他者の体験が自分の中で、そして他者の体験が別の他者の中で、元の体験とは異なる形で生きているということが、遊びの中で体感されているとも言えます。そして、この過程についてみんなで語り合うことが、この遊びにおける「楽しさ」につながっているのです。

それは、ハーモニーのメンバーの体験をもとにかるた札をつくり、それを見てジェスチャーをし、それを見て札を取り…といった具合に、幾重にも体験が重なり合い循環していくことで、初めて成り立つ楽しさでもあります。

このように、多様な体験を、その間にある異なりはそのままに、互いに重ね合わせ生かし合うことで、この「ジェスチャーかるた大会」という小さな場は成り立ちます。そしてそれは、今年度の事業目標である「迂回路(=様々な人との関わりのなかで発見される「こうもありえる」というありよう)をつくる」ということとも、大きな関わりを持っていると思うのです。

その一端をみなさまにも体験していただくべく、今回、第1部のプログラムとして、この「ジェスチャーかるた大会」を実施する運びとなりました。この遊びを経ることで、第2部の「”迂回路”をつくるということ」というテーマによるトークセッションも、より体感を伴う形で聞くことができると思います。

…と、いろいろなことを書きましたが、まず「遊び」であり「ゲーム」なので、きっと楽しい場になること請け合いです。ぜひぜひみなさまお誘いあわせの上、お越しいただけると大変うれしいです!

お申し込みは、こちらからお願いいたします。

(石橋鼓太郎)