多様性と境界に関する対話と表現の研究所

アートカウンシル東京

【開催報告】もやもやフィールドワーク 報告と対話編 第12回

「もやもやフィールドワーク報告と対話編」第12回を、8月25日に開催しました。

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第1部は「アクションリサーチの試み――ハーモニーとの協働から(中間報告)」と題して、世田谷区の就労継続支援B型事業所ハーモニーと一緒に進めているアクションリサーチについての中間報告を行いました。そして第2部は「哲学カフェ」のスタイルをとって参加者とともに「“わかりあえない”から何がはじまる?」ということについて、輪になって座り、言葉を重ねました。

アクションリサーチとは、課題に関わる人々が協働で解決策を実際に考案、試行する研究手法のこと。調査する・されるの関係を超えて、調査先との関係をつくっていきます。実際に課題解決を行うのは容易ではありませんが、その調査過程でどういう道があるのかを導き出すのが狙いです。


ハーモニーメンバーの幻聴や妄想の体験をもとに作成された「幻聴妄想かるた」の新たな遊びを皆で考えワークショップの手法に落とし込むことを通して、新たな体験が生成されることを具体的な目的とし、研究所員・ハーモニー職員・ハーモニーメンバーに外部メンバーを加えて協働してアクションリサーチを実施しています。

しかし、それぞれの立ち位置によって大事にしたいことが異なるため、一つの案になかなかまとまらなかったといいます。障害をはじめとする問題を抱えたメンバーの新たな形での「社会参加」を促進したいスタッフ、アクションリサーチを念頭においた研究所員、またメンバーからはそもそもゲームとしての面白さを重視する声なども。思いやニーズは、すぐにはまとまらなくても根気強く関わり続け、みなで共有できる軸を少しずつ摺り合わせていくものだということに気づいた、との報告がされました。

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身近にいる人の中でも意見をまとめることは容易ではなく、第2部哲学カフェのテーマ、「“わかりあえない”から何がはじまる?」という問いの答えは所員にもわかりません。ただ「わかりあえない」というところからこそ、少しずつ、少しずつ、何かが生まれるのではないか。参加者の方々からも以下の言葉をはじめとしていろんな意見、想いを発していただきました。

近づけば近づくほど、溝は深まる。どうしてもわからない部分が見えてくる。

ただ、溝は残さないきゃいけない。納得できないことにどう落とし前をつけるか。

わかりあえない人と”わかりあえた”と思う瞬間は例えば、なんらかの自分の体験や記憶とかすったとき。お互いの背景が共有できたとき。お互いの発する言葉の色彩や形のようなものが一致してぶつかったとき。分かり合えた瞬間は「響き」に似ている。それはボジティブな響きもあれば、ネガティブな響きもある。

わかりあえなくても同じ場にいなければいけないことはあるし、ほっとくわけにはいかないわかりあえなさもある。現実的に問題になることもある。そのときどうするか。

わかりあえない人と接するために、テクニックを用いてお互いの間の解をつくる。

居方。術。付き合い方。そしてテクニックが人格と一体化していくこともある。

関係は疲れたらおしまいだ。忍耐が必要だ。だから疲れないようにする。

このように皆で話を重ねていく中で、「わかる」という言葉を実はいろんな意味・位相の中で使っていることが改めてわかってきました。相手がどういう経験をしたか知ること。その内容を理解すること。そのときの気持ちを汲むこと。

わかりあえないことから何が始まるのかという問いへの明確な答えは一朝一夕にはでないものかもしれません。けれどその問いを通して、様々な立ち位置の方が自ら感じていることを様々な考え方・表し方で探り伝えあおうとする。その中で、皆で共有できていること、またはできていないことの輪郭が浮かび上がると同時に、各々が自身の中での発見や再発見をしていけるのではないか。参加者の輪の中に居ながらそう感じました。

ハーモニーと協働で進めているアクションリサーチは、10月に開催予定のオープンラボでワークショップとして公開予定です。ご参加お待ちしております。

(五藤真)