多様性と境界に関する対話と表現の研究所

アートカウンシル東京

【週報】経験の断片を交換しあう:もやもやフィールドワーク調査編から

2016年07月13日

蒸し暑い日が続く、7月。いかがお過ごしですか。

少し前のことになりますが、先日、「もやもやフィールドワーク・調査編」に参加してくださる、チームメンバーのお一人、梅津正史さんと打ち合わせをしてきました。梅津さんは、東京藝術大学を卒業後、現在は東京都内にある「あべクリニック」という精神科クリニックで、精神保健福祉士として勤務されています。

 梅津さんには、一昨年前、トークシリーズ「迂回路をさぐる」にご登壇いただいた際に、クリニックで実践されている造形活動について、お話いただきました。それが「Reborn部」という活動です。通常、造形活動というと、アトリエで絵画を描いたり、陶芸をしたりして、各自が作品を制作する活動をイメージされるかもしれません。しかし、このReborn部には、それらとは趣の異なるユニークさがあります。
 では、Reborn部とは、どのような活動なのでしょうか。Reborn部では、メンバーがそれぞれ一冊ずつ日記帳を持ち、日々の日記をつけていきます。書き方は自由で、文字や絵を綴ってもいいし、見た映画や本の言葉を引用したり、写真やチラシをコラージュのように貼りつけてもOK。そして、定期的にメンバーが集まって、互いの日記を見せ合います。日記をつけて、見せ合う。これを繰り返すのが、Rreborn部の活動です。
 ホームページによると、Rebornという言葉は、20世紀アメリカを代表する批評家・小説家であるスーザン・ソンタグの『私は生まれなおしている』という作品の原題『Reborn』からとられたものだそうで、「読み返すことで自分をつくりあげていくこと」や、「このグループワークをすること自体が、自分や他人の切り貼りを集め、編集するという行為を生み出す」ことが意図されているといいます。つまり、自分の日々の経験と他人の日々の経験の断片を交換することから、何かが生まれるのを目指す活動と言えるでしょう。
 Reborn部で書かれた日記の抜粋を集めた「Scrap of Reborn」のページを見ると、「日々の切り貼りを集め、編集する」ことが、実際にウェブ上で行われていることが分かります。一つひとつの日記がバラバラに表示され、合間にメンバーの言葉や、古今の文学作品の一節が挟まれています。それらはランダムに入れ替わり、見るたびごとに、異なる印象や感情を与えます。この、「自分と他人の経験の断片が入れ替わり、交わりながら、一つの何かを編んでいく」仕掛けこそが、Reborn部の活動のいちばんのユニークな点だと思います。

 この仕掛け、実は、最近公開された、「就労継続支援B型事業所 ハーモニー」さんの「幻聴妄想みんなのかるた」のページとも通じるものがあるように思います。「ハーモニーのかるたから、みんなのかるたへ」と題されたこちらのページ、ぜひご覧になってみてください。

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(写真は、昨年の「東京迂回路研究フォーラム」での、幻聴妄想かるた大会のものです)

 今回、梅津さんに「もやもやフィールドワーク・調査編」へご協力いただくのも、まさにこの点と関わっています。今年度は、調査先の人々をはじめ、さまざまな方々と「共に」、具体的に何かをつくりあげていくことを通して、研究を進めていきたいと考えています。そこで、自分と他人の経験が交わり合いながら新しい何かを生み出していこうとする活動をされてきた梅津さんに、アドバイザー的な立場から協力していただきたいと思ったのです。

 このようにして、「もやもやフィールドワーク・調査編」、着々と進んでいます。この先どうなっていくのか、とても楽しみです。

(三宅博子)