多様性と境界に関する対話と表現の研究所

アートカウンシル東京

【週報】今年度もありがとうございました

2016年03月31日

東京迂回路研究、2年目となる今年度の事業をつつがなく終了することができました。本年度お世話になったみなさまに御礼申し上げます。

1年目は、私たちが多様性(diversity)と境界(division)という言葉から見つけ出した「迂回路(diver-sion)」という言葉について考え、「迂回路をさぐる」ことをテーマに据えてきました。このことを受けて、2年目となった本年度は、この迂回路という言葉について深め、さらに迂回路をさぐり続けると同時に、「迂回路をつなぐ」ことも目指してきました。この事業を手探りで進めてくるなかで私たちは、徐々にこの迂回路を研究することの意味や、その立ち位置について考えてきました。

この2年間、いろいろなことが起こりました。
人の価値観や固定概念、また社会のなかにある制度など、さまざまな「境界」に対して、どこか既存の取り組みと違う方法で立ち向かい、新しい出来事を起こしている人たちに数多く出会ったこと。
研究者として、私たちはこのことに対してどのように振る舞うのか、またどのように言語化することができるのだろうか、ということを、複数の分野で研究を進める人たちと共に考え、掘り下げる場をつくってきたこと。
同時に、この研究を単に「研究者」だけのものとして捉えず、「多様性」と「境界」の現場—それは福祉施設かもしれませんし、セクシュアル・マイノリティについての場かもしれませんし、子どものための施設かもしれませんし、お年寄りがいる場かもしれず、さらにそのようにわかりやすくカテゴリ分けできないものかもしれません—のただなかにいる人たちとともに考え、語りあうようなネットワークも少しずつ生まれつつあること。

「多様性」と「境界」という言葉。それから、「迂回路」という言葉。
この言葉に、自分が言葉にできていなかったけれど、普段から感じていたことを説明するために「迂回路」という言葉を活用する人たちにも、数多く出会ってきました。また、自分が置かれている環境への違和感を投影する人たちにも出会いました。この考え方が共感を呼び、いくつかのメディアで紹介をしていただき、講演の依頼も頂くことが増えてきました。

次年度、3年目は、その先を見据える1年間になります。
当初考えていた3年目のテーマは、「迂回路をつくる」。これは、私たちが自分たちの手で「迂回路をつくる」わけではない、と今のところ考えています。それよりもむしろ、これまで出会ってきた人々、そして、まだ私たちが出会っていないかもしれない、この社会のなかで生き抜くための「迂回路」を生み出している人や、必要としている人、その周囲にいる人などが、それぞれの立場から、それぞれの方法で「迂回路をつくる」ことを目指したいと思っています。だとしたら私たちの役割は、この「迂回路」という、少々やっかいで、だけれどもこの社会のなかで必要な叡智を、語り、示し、深め、提示することかもしれません。次年度はこうした観点から、事業を進めていきたいと考えています。

研究所運営としては、4月1日付で大きな体制変更があります。しかしこのことはこの研究の歩みを止めるのではなく、むしろその可能性や道筋をさらに広げ、今後も私たちを含めた多くの人たちが「迂回路」について、そしてこの社会で生き抜くための方法について考えを深めるための重要な契機になるものと確信しています。みなさまには体制変更に伴い、いろいろとご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、どうか寛容に見守っていただければ幸いです。

いまの社会において加速度的に求められる「社会包摂」。大文字の概念や既存の価値観をうのみにすることなく、私たちはこれからも、多様性と境界に関して、対話と表現のありよう、そして「迂回路」の姿を追い求め、ひとつひとつ研究の歩みを進めて行きたいと思います。次年度もどうぞよろしくお願い致します。

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3月31日、市ヶ谷、桜の木の下にて。

(長津結一郎)