多様性と境界に関する対話と表現の研究所

アートカウンシル東京

【開催報告】もやもやフィールドワーク報告と対話編 第9回 開催しました

12月17日、「もやもやフィールドワーク 報告と対話編」第9回を開催しました。今回のテーマは、「報告:閉じながら開かれる場―ふわカフェの実践から」、「対話:安全な場所はどこにあるのか」。東京都三鷹市の国際基督教大学ジェンダー研究センターが実施する、ジェンダーやセクシュアリティのことについてみんなで“ふわっと”おしゃべりする場「ふわカフェ」の実践について、語りの場のあり方という視点から報告しました。

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(加藤さんが連れてきた、レインボーカラーのくまを頭に乗せて、開始前の打ち合わせ)

国際基督教大学は、日本で唯一「ジェンダー・セクシュアリティ研究」を専攻できる大学です。ジェンダー研究センター(The Center for Gender Studies:CGS)は、研究と教育の両輪を成り立たせるための学生たちの居場所として立ち上げられました。「ジェンダー・セクシュアリティにかんして“ふわっと”話せる場がほしい」という学生たちの要望に応えて、2012年から始まったのが「ふわカフェ」。LGBTといった言葉では形容しきれない、明確に言葉にしづらいような違和感や、行き場のない“もやもや”を語ることのできる場として、学期期間中に毎月1回開催されています。

今年の5月にインタビューに伺った際、研究員の加藤悠二さんのお話に、示唆に富むものを感じた私たち。9月のフォーラムでは「出張ふわカフェ in 東京迂回路研究」を一緒に開催することができました。今回、あらためて「報告と対話編」で取り上げるにあたり、関心の中心にあったのはやはり「ふわカフェ」という場のありようでした。どのように場が運営されているのか。そしてそこは、何を可能にする場なのか。「ふわカフェ」という場について語るには、より継続的に関わっていく必要があることはもちろんですが、今回は中間報告的に。
「ふわカフェ」では、参加者全員が共有する「グランドルール」を設けており、語られたことが「ここだけの話」であることや、さまざまな人の語りを否定しないことが約束されます。このことが基盤となり、参加者が自らのセクシュアリティを既存の定型に当てはめないまま語ることや、その状態に対する自信が少しずつ上がっていくといいます。加藤さんがインタビューで、このことを「芯のある〈ふわっ〉」という言葉で表現されていたのが印象に残りました。また、ふだんと異なる設定で行われた「出張ふわカフェ」では、ジェンダーやセクシュアリティについて日常のなかで意識してきた人/してこなかった人/関心はあるが触れる機会がなかった人などが出会う場となったと同時に、自己を規定するアイデンティティをめぐる問題について、より広く考える機会になったのではないかと思われました。
これらのことから、「ふわカフェ」が、その場やテーマをいったん閉じつつ、語りの中身にかんしては常に開かれていることにより、「何者」かではない私が、〈わたし〉としていられる場が生じるのではないかと考えました。

報告を経て、対話編へ。いつもとは趣向を変えて「ふわカフェ」に近い設え。参加者みんなでちゃぶ台を囲み、お茶とお菓子をつまみながらの対話です。「ふわカフェ」主宰者の一人である加藤さんも、ご参加くださいました。

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対話編では、哲学カフェの形式で「安全な場所はどこにあるのか」というテーマについて、参加者皆で話し合い、考えました。自分にとって安全と感じられる場所を挙げることから始まり、ゆりかご、シェルター、誰も自分を知らない都会の雑踏や海外、などの意見が出されました。そこから「安全と安心は異なるのか」、「何に対しての安全、安心なのか」といった問いを軸に話が展開し、図らずも話題は「差別」の問題へ。人間のある一つの属性だけを見て、何かのレッテルを貼られたり、こうと決めつけられたりすることへの不快感や、そのような振る舞いにかんするリテラシーについて、意見が交わされました。

終盤、加藤さんの発言が心に残りました。

「自らのアイデンティティについて語れること/語れないことがあるのは、マイノリティもマジョリティも関係ない。…(たとえば) セックスについて、語る場を持っている人のほうが少ない」

自らのことを“ふわっと”語り、誰もが〈わたし〉でいることの出来る場。それはなにもマイノリティの「ための」場所ではなく、誰もが必要としている場のはずです。今回の対話を通じて痛感したのは、そのような場が誰かによって作られたり、自然に生じたりするものではなく、私たち一人ひとりが作り上げていくものなのだということ。引き続き、考えていきたい課題です。

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報告と対話編、次回は2016年2月25日(木)の開催です。詳細はまたおってご案内させていただきます。みなさまのご参加お待ちしています。

(三宅博子)