多様性と境界に関する対話と表現の研究所

アートカウンシル東京

【開催報告】もやもやフィールドワーク分析編第3回、終了しました

2015年12月25日

P1070769

12月23日、今年度よりスタートした「もやもやフィールドワーク分析編」、第3回を実施いたしました。
毎回、気鋭の研究者をゲストコメンテーターにお招きし、研究員の発表とそれに対するコメント、参加者全員によるディスカッションを通じて、「もやもやフィールドワーク」で得た実践知をつなぎ、深化させることを目指すこの企画。

第3回のゲストは立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授で文化人類学者の小川さやかさん。
専門は文化人類学、アフリカ研究で、タンザニアの零細商人マチンガの商慣行と都市的な共同性を狡知(ウジャンジャ)を切り口に論じた『都市を生きぬくための狡知』で、第33回サントリー学芸賞(社会風俗部門)を受賞されています。
当日はにこやかで、かつ引き込まれるようなプレゼンテーションで、集中度の高い時間となりました。

P1070737

最初にまず小川さんから、ご自身の活動紹介がありました。これがとにかく面白かった! アフリカの都市化を背景に、インフォーマルセクターと呼ばれる「都市雑業」で生計を立てる人が全体の33%もいるというタンザニアでのご自身のフィールドワークをもとにして、その独特のコミュニケーションの様相を解き明かしているご研究の一部を垣間見ることができました。なかでも面白いのが「ウジャンジャ」という概念。スワヒリ語で「ずる賢さ」と「賢さ」の両方の意味を持つというこの言葉は、とにかくなんとかその場を切り抜ける「(悪)知恵」という意味を持っています。この知恵、換言すると「狡知」こそが、タンザニアの都市を生き抜くための技として機能している様子が語られました。即興的で、客に応じた演技を行っている様相や、それぞれのウジャンジャが個々の生き方や特性をうまく応用している様子が紹介されました。

P1070779

つづいて東京迂回路研究のメンバーからのプレゼンテーション。わたしたちはいま一度「迂回路」という言葉をどのように捉え直すことができるかという発表でした。迂回路という語源をひもときながら、わたしたちの研究ではなにを「迂回路」として見ているのか、ということをお話しました。そのうえで、迂回路というのは「それが作られることによって元の道のありようも変化させ、新たな共通の場所へ至ろうとする道」なのではないか、とする提起がありました。
これに対し小川さんからは、文化人類学的な概念やご自身のフィールドでの体験をひもときながら、迂回路が生まれる源泉やその多様化のための戦術、さらには他者理解についての考え方や合法性/違法性についての考えにまで話しを広げ、丁寧にコメントをいただきました。

P1070787

全体でのディスカッションも非常に盛り上がりました。今回のゲストコメンテーターの小川さんがアフリカをフィールドにしているということで、アフリカでの滞在経験があるという参加者も複数名いらっしゃいました。フロアからは、迂回路はつくられるものではなく、既存の道をうまく利用するブリコラージュ的な側面があるのではないか、という声や、キーパーソンが必ずしもいるわけではなく、みんなが通っているうちになんとなく「迂回路化」する、ということもあるのではないか、という声が寄せられました。またウジャンジャのありようについてもコメントも多く寄せられ、「この人は●●だから信頼できる」というのではなく「この人は●●もしてしまうけれど××はしない、ということを知っていることが信頼である」という考え方やなど、プレゼンテーションの中でお話にならなかったことも含めて話が広がりました。

今回の分析編はいつになく参加者のみなさんのディスカッションが活発で、ゼミのような雰囲気でした。次回も引き続きよろしくお願いします。
次回は1月23日(土)、「〈表現する〉とはどういうことか? -非言語コミュニケーションを通して考える東京迂回路研究」というテーマで、九州大学大学院芸術工学研究院准教授・芸術社会学者の中村美亜さんをお招きして、東京迂回路研究について考える場を持ちたいと思います。お楽しみに!

(報告:長津結一郎)