多様性と境界に関する対話と表現の研究所

アートカウンシル東京

【開催報告】もやもやフィールドワーク 報告と対話編 第8回

9月17日、「もやもやフィールドワーク 報告と対話編」第8回を開催しました。今回のテーマは、[報告:当事者研究とその文化–べてるまつりに参加した経験から]、[対話:哲学カフェ「文化が生まれるところとは」]。北海道浦河町にある精神障害のある人などの地域活動拠点「べてるの家」が中心となり行っている「べてるまつり」での体験から、当事者研究とその文化について考えてきたことを報告しました。

べてるの家は、1984年に設立された、精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点。社会福祉法人浦河べてるの家、有限会社福祉 ショップべてるなどの活動があり、総体として「べてる」と呼ばれています。べてるは、生活共同体、働く場としての共同体、ケアの共同体という3つの性格を持っていて、100名以上の当事者が地域で暮らしています。また、そこから生まれた「当事者研究」は、日本国内のみならず、海外へも広がりを見せています。

その先駆的な取り組みから 精神保健福祉分野ではとても有名な「べてる」については、これまでさまざまな分野の研究者たちが研究してきました。そんななか、いわば「べてる初心者」の私たちが何か言えることはあるのだろうか。メンバーで議論を重ねるなか、今回の報告に向けて見出したのは「場」「文化」という視点でした。

P1060924_02

さまざまなプログラムによって構成されるべてるまつりは、そこがどのような場かということも、見る人や注目点によって大きく異なるように思います。

参加者が気ままにふるまうことが許される緩やかな場にもみえ、型どおりに進む形式張った儀礼の場にもみえ、手づくり感満載のローカルな発表会にもみえ、当事者研究発祥の地としてのグローバルな聖地にもみえる。この「玉虫色のべてるまつり」は、しかし、でたらめな場というわけではありません。そのひとつひとつが、べてるのさまざまな文化的側面の表出ととらえることができるのではないでしょうか。

ローカルな文化どうしの間や、異なるレベルの文化の間には、境界線やずれがある。それは齟齬を生むこともありますが、新たな文化を創造する種にもなります。

緩やかで、かつ形式張った場であるべてるまつりは、当事者研究文化の多様さや、その間にある境界線や齟齬を、そのまま許容するような機能をもった「儀礼」として機能しているように思えました。

P1060943

報告を経て、対話編では、哲学カフェの形式で、「文化の生まれるところとは」というテーマについて、参加者皆で話し合い、考えました。

文化という言葉を聞いて思い浮かぶことをあげることから始まり、そこで出された「いたみ」–「痛み」「悼み」という言葉を中心に、対話は展開していきました。

「文化は2人以上の人が集まったところで生まれる。その意味で、1人では生まれないと考えていたけれど、一人一人のなかにも文化素と呼べるようなものがあるのではいか」。

「異なるものに触れ、なにか齟齬や摩擦が生じたときに、それをなんとか乗り越えようと互いにあれこれするなかで生まれるのが文化なのではないか」。

「文化を失った時の痛みは耐え難い」。

「ひとつの文化に属することが与えてくれる安心感もあるのではないか」。

といった意見が心に残りました。参加してくださった方々からは「「文化」をいつもは考えたことのない側面で考えることができた」。「最後、みなさんの話を聞きながら自然と人のかかわり、変えられることと変えられないこととのかかわりなどをあれこれ考えていました」。「もっと時間があれば!と思いますが、きっとこの位がちょうどいいのでしょうね!」といった感想をいただきました。

報告と対話編、次回は12月17日(木)の開催です。詳細はまたおってご案内させていただきます。みなさまのご参加お待ちしています。
(報告:井尻貴子)

※「もやもやフィールドワーク」とは、東京都および近郊エリアの、医療・福祉施設、当事者団体、ケアに関わる団体等を訪問し、活動の参与観察や関係者への聞き取りを行う「調査編」と、その調査で得られた見解や視点を参加者と共有し、ともに話し合い考える「報告と対話編」、研究者をゲストに招き、理論的・方法論的な視座から考察を深める「分析編」からなる研究プロジェクトです。
調査・報告・対話・分析のサイクルを通じ、さまざまな場を捉え直すことを試みています。