2016年9月16日(土)、SHIBAURA HOUSEフレンドシップ・プログラム2017の一環として、<nl/minato_対話カフェ「わたし」らしく生きること~ジェンダー・セクシュアリティをめぐって・第2回>を開催しました。今回のテーマは、「安全に話す/聴くことの出来る場とは」。特定非営利活動法人虹色ダイバーシティの加藤悠二さんをゲストにお迎えしてお話しを伺い、来場者・スタッフ合わせて15名の参加者で対話を行いました。
前半は、加藤さんによるトーク。加藤さんは、現在、虹色ダイバーシティの東京スタッフとして、LGBT等の性的マイノリティが働きやすい職場づくりの支援に携わっています。(オフィスが田町にあり、じつは、SHIBAURA HOUSEや芝の家とも「ご近所さん」なのです。) 以前は、国際基督教大学ジェンダー研究センター(CGS)に勤務していました。そこで、ジェンダーやセクシュアリティについて「ふわっ」とおしゃべりする「ふわカフェ」の運営に携わった経験を中心に、お話しいただきました。
最初に、ジェンダーやセクシュアリティに関する用語の説明から。近年、いわゆる「性的マイノリティ」の総称として使われることが多いのは、Lesbian (レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字を取った、LGBTという言葉です。この言葉は、人から決められた診断名や呼称ではなく、当事者自身が決めた「名乗り」の言葉であることが大きな特徴です。また、「性的マイノリティ」といわれる人々が、それぞれ異なるニーズや大変さを抱えつつも、社会のなかで連帯していこうとする姿勢を示す意味合いもあります。
一方、性の多様性を考えるキーワードとして国際的に使われはじめている言葉に、SOGIEというものがあります。SOGIEとは、Sexual Orientation(性的指向:性的関心を向ける対象は誰か)、Gender Identity and Expression(性自認、性表現:自分の性的アイデンティティをどう捉え、どう表現したいと思っているか)の頭文字を取ったもの。LGBTは、自らの性的アイデンティティが問われる概念ですが、これらのカテゴリーに当てはまらないと感じる人たちも多くいます。また、ジェンダーやセクシュアリティの問題が、LGBTという少数派の人だけの問題と捉えられてしまうこともあります。これに対し、SOGIEは、性的指向や性自認・性表現といった構成要素に分けて考えることで、ジェンダーやセクシュアリティの問題を、マイノリティ/マジョリティの二分ではなく、全員に関わることとして捉えようとする言葉です。
最近では、LGBTという言葉やそれに関する話題は、メディアでも頻繁に取り上げられるようになっていますが、日々の生活でジェンダーやセクシュアリティについて話しやすいかと言うと、決してそうとは言えないでしょう。加藤さんは、話しづらさ/聞きづらさを感じるのはなぜか、当事者と非当事者両方の視点から紐解いていきました。当事者のひとにとっては、性に関する話の話しづらさ、差別や偏見・無理解への恐れ、アウティング、孤立などの問題があります。これらはいくつも重なっているので、「話したい気持ち」より「話せない理由」のほうが大きくなりがちです。非当事者のひとにとっては、これらに加え、自分にとって受け入れ難い話だったらどうしよう、知らないことを「知らない」と言っていいのだろうか、秘密を守るのが負担、知れば知るほど「自分も差別している」と分かってきて何も言えなくなる、などの問題があります。このような状況で、日常的に話をしやすい環境をつくるのが難しいのではないかと思われます。
そこで、「どうやったら話しやすくなるか?」に取り組んだ事例として、「ふわカフェ」が紹介されました。ふわカフェは、学期中の毎月1回開催される、学内外を問わず誰でも参加可能なカフェイベント。世話人の進行のもと、「カミングアウト」「好きってなに?」など、ジェンダー・セクシュアリティに関するその日のテーマについて、おしゃべりします。
ふわカフェでは、参加者が安心して気軽に参加できるよう、メディア、環境、対話の進め方に細やかな配慮がなされています。たとえば、告知チラシには、アイデンティティを決めつけるような言葉遣いを避け、丸文字やゆるキャラを用いてやわらかなイメージを醸し出しています。また、会場は、外から中の様子が覗けてしまわないように設定し、お茶やお菓子を用意して居心地のよい空間づくりを心掛けています。今回は、後半に「ぷちふわカフェ」を行うにあたり、会議室の設えをこんな風にしてみました。(カップから顔を出すかわいい生き物は、ふわカフェのゆるキャラ「ふわりん」です。)
参加の安全を確保するためにとくに重要なのが、グランドルールです。A4で印刷された紙に、「今日・ここだけ」の場にしよう」「ここにはさまざまな人がいることを忘れず、否定をしない」「話すだけ・聞くだけでもOKな場所にしよう」「話したくないことは話さない、話せなかったことで諦めない」などの約束事とその意図が書かれています。ふわカフェでは毎回、参加者全員でグランドルールを共有します。グランドルールには、多様な立場の参加者を尊重し、語りの内容や語ることを強要しない姿勢が表されていました。「ふわっ」という言葉にも、この姿勢が込められているように思います。
後半はいよいよ、加藤さんの進行による「ぷちふわカフェ」。最初に、グランドルールを読みあげて全員で確認してから、それぞれが呼ばれたい名前と今の気分を言っていきました。進行役が「安心して話せる場ってどういう場所だと思いますか」という問いかけをし、参加者が思い思いに話しました。
私が印象に残ったのは、「心にグランドルールを」という言葉です。理解がない人に分かってもらおうとするのは難しい、でも人の心を変えることはできないし、したくない。一人ひとりが、その場でどう振る舞うべきか、何がよくて何がだめなのかを示すグランドルールを持つことによって、状況は変わっていくのではないか。翻って考えてみると、ふだんの生活のなかで、多様な人が安全・安心に過ごすことの出来る場はまだまだないのだということを思い知らされます。「ふわカフェ」では、部屋をどう設えるか、おやつに何を選びどう提供するか、どうやって挨拶するか、そういったことの一つひとつとその組み合わせが、参加者に「あなたを迎え入れています」「あなたを尊重しています」というメッセージを発していました。「グランドルール」とは、一人ひとりの心に置かれることはもちろん、物理的・心理的・社会的環境のあらゆる面において表現していく必要があることなのではないでしょうか。
今回の参加者は、場づくりに興味のある人、テーマに興味のある人など、様々でした。ふだん開催されている「ふわカフェ」とは、少し雰囲気が異なっていたかもしれません。私自身、ここでどうふるまい何を話すべきか、逡巡する気持ちもありました。後日、そのことについて考えていると、加藤さんがトークの最後に紹介された、薬物依存症回復施設 「大阪ダルク」ディレクターの倉田めばさんの言葉*が、あらためて蘇りました。倉田さんによると、「大事なのは、人の話を聞くこと」。人の話を聞くともなく聞くことを続けるうちに、その時々で起こる感情や行動を自分でチェックし、言語で認識できるようになっていき、やがていつのまにか自分の言葉としてアウトプットされるようになる。このように、語りようのなかったことを語る言葉を見出していくことは、当事者・非当事者を問わず、必要なプロセスなのではないかと思います。ジェンダー・セクシュアリティについて安心して語る場を開き、継続していくことの重要性を、あらためて感じる機会となりました。
*人生は物語 #95 Freedom 代表 / NPO法人大阪ダルク ディレクター / 元職業カメラマン 倉田めばさん
http://lifestory-gallery.com/archives/1623 (2017年10月3日参照)
(三宅博子)